■ワイヤレスジャパン2023講演模様

「商用展開がはじまった本格的IoT展開を支える802.11ah」


802.11ah推進協議会
副会長 鷹取泰司


■802.11ahについて

802.11ahは従来のWi-Fiと比較すると、より広いエリアで利用することができます。また従来のLPWAと比較すると、より高速な伝送が可能となります。昨年の9月に電波法令が改正され802.11ahの国内における展開がスタートしています。

他のIoT向け規格との比較を示します。
920MHz帯を活用することで、従来のWi-Fiと比較するとエリアが大きく拡大しています。他のIoT向け無線システムと比較して高速な伝送が可能になりますので、ビデオ伝送などを一定のエリアで実現することができます。
また、低消費電力のため電池駆動など電源リソースが制約された製品への実装も想定され、電源環境の確保が難しい環境下でのIoT実装にも適しています。


■他のIoT向け規格との比較(簡単導入)

802.11ahの魅力は沢山あります、この講演では「簡単に使えるIoT無線」という点をお伝えします。既に様々なIoT向け無線システムが多数出てきていますが、実際にそれらを導入する場合、専門知識が必要となり難しさを感じることが少なくないと思います。
実際802.11ahを導入する場合はどうなのか、私自身でやってみました。こちらは通常の無線LAN環境になり、2FにAPを設置して、Wi-Fi端末で通信を行っている状況です。この環境を使って802.11ahの構築を説明します。

無線/有線LANルーター側は、LANポートに802.11ahのアクセスポイント(AP)を接続します。端末側は有線LANのポートがあれば802.11ahの端末とそのまま接続することが可能となりますが、iPadなどの端末では既存のWi-Fiのインタフェースしか装備していないケースも多いと思います。そこで、802.11ahの端末の先にトラベル用のルーターを接続しました。これにより、簡単にiPadなどを802.11ahに接続することができるようになります。

本構成における測定結果の一例ですが、802.11ahでは十分に高い受信レベルになっていることが確認できます。また、802.11ahは従来の無線LANよりも帯域が狭いため感度も10dB程度良くなると想定されますので、そういった点も含めると安定した無線通信が期待できることが分かります。

こちらはDuty比の観測時間を1秒に設定し、1秒単位でDuty比10%を満たすようにしてスループットを測定した結果となります。700Kbps程度のスループットが出ていることが分かります。
先日、ビデオ映像付きのリモート会議をこの設定で実施しましたが、1時間以上にわたって動画が途切れることなく会議を実施することができました。
このように、802.11ahは簡単に無線環境を構築でき、更に皆様が利用している様々なアプリケーションをそのまま使えるという特長があることが分かります。


■920MHz帯での802.11ahについて

802.11ahが使える周波数帯は920MHz帯の中の920.5-928.1MHzになります。

実際にどのように周波数チャネルの設定ができるかを示しているのが、こちらのスライドになります。1MHzでは6チャネル、2MHzでは4チャネル、4MHzでは2チャネルの設定が可能です。オーバーラップしないように周波数チャネルを設定する場合は2MHzでは2チャネル、4MHzでは1チャネルの利用が可能となります。

今回の制度改正の大きなポイントの一つに、4MHzモードが利用可能になったという点があげられます。
こちらの表にありますように、1MHz帯域と比べて4.5倍のスループットが期待できます。これは1MHzモードを4つ並べると、間の周波数が使いきれないのですが、4MHzモードではその部分も有効に使えるためです。このように周波数を有効利用できるのも802.11ahの特長になります。

802.11ahは実際に商用展開していく場合、「技適マーク」の付いた製品を使って頂く必要がありますので、よろしくお願いします。


■920MHz商用機の伝送評価

920MHz帯の実運用では、電波を放射する時間を1時間当たり360秒以内とするDuty制限があります。このような場合、連続的な通信を行うアプリケーションの利用が難しいのではないか、というご質問を頂くことがありますが、実際には冒頭の例でご紹介したように1時間以上のビデオ伝送も可能です。
何故可能になっているかの説明がこちらのスライドになります。

無線通信ではデータを細かく分割して信号を送信しています。見て頂いて分かるように端末Aへの通信は、このように飛び飛びの時間で送信されることになり、この間隔を適切に設定することで連続的な通信を行うことができます。
上り伝送、下り伝送の結果です。上り伝送は端末数に比例して合計スループットが向上していることが分かります。通常の無線LANでは台数が増えるとそれに応じて1台当たりのスループットが低下しますが、11ahの場合殆ど低下していないことが分かります。

商用機で長距離伝送した結果、スループットは300kbps以上となりました。これはDuty比を考慮した結果ですので、十分高い伝送速度が実現できているといえます。

このような802.11ahですが、市場の期待も高まってきていると感じています。
当初考えていたユースケースだけでなく、様々なソリューションへの適用が期待されていることが分かってきました。

こちらのスライドでは、地域が抱える課題解決に向けての802.11ahの活用をまとめました。この内容が全てではありませんが、用水路監視、学校関連の安全安心、道路の監視、スマートホーム、水産業のDX、公園等の地域の安全など多様なユースケースへの適用が期待されています。

製品化の方も法令改定後、国内メーカーを中心に11ah対応製品のリリースが進んできています。図表の中央が第一段階になりますが、その後も様々な製品の商用化が予定されています。多様な無線アクセスポイントや、11ahを搭載した各種デバイスが登場してくることによって、より一層802.11ahで提供できるソリューションが拡大していくものと考えています。


■さらなる高みへ!

AHPCでは802.11ahのさらなる展開に向けた取り組みも開始しています
利用開始になった周波数は920MHz帯ですが、利用可能な周波数をさらに拡大していく取り組みも行っています。デジタルMCAという無線システムが新しい周波数に移行していく予定で、その周波数帯での802.11ahの利用を考えています。
新しい周波数が利用可能になれば、さらなるIoT通信の拡充が期待できます。


昨年の11月末に、新しい実験試験免許も取得しており、室内や屋外での実験を開始しています。

時間が限られていたため、802.11ahの魅力の一部をご紹介しましたが、より詳細な内容については是非802.11ah推進協議会のブースでお話しを聞いていただければと思います。
本日はありがとうございました。