802.11ah推進協議会(AHPC)第5回総会の開催の報告

 マーケティングTG 森田基康
 
 2022年12月15日(木)、802.11ah推進協議会(以下「AHPC」と記載)第5回総会が開催されました。総会はコロナ感染拡大の状況を鑑みて前回同様オンラインによる対応となり、920MHz帯の電波法令改正後初の総会で、802.11ah(以下「11ah」と記載)における商用化に向けた大きな節目の開催となりました。

 

■総会開催にあたりご挨拶

 総会に先立ち当団体の会長小林忠男より、920MHz帯電波法令改正がされたことについて説明がありました。

 AHPCはこの4年間コロナ禍という状況を踏まえ、会員企業と共に国内で11ahが利用できるよう様々な活動を行いました。総務省の協力を得て実験局申請や11ahの性能評価等の取組みをしてきたことで、ようやく電波法令が改正され国内で11ahが利用できる状況になりました。過去このように国内で新たな無線システムが利用できるようにする取組みは、団体活動としては極めて珍しいことであり、会員企業含め活動にご協力いただいた運営会参加企業に対し、感謝の言葉がありました。
 国内で11ah利用ができるようになり、運営会企業や会員企業に向けて、ビジネス化の取組みやIoT基盤インフラの構築や実装を進めて欲しいとのことでした。また11ahはビジネスマーケットのみならず、コンシューマー向けマスビジネスにも拡げ成長させていきたいとの意向を示し、11ahによるIoT実装に向けた様々なキーデバイス製品の開発が必要になるとのことでした。
 

■来賓挨拶と講演

 920MHz帯制度改正の主幹課である、総務省移動通信課の中村課長様より「移動体通信政策の動向について」と題して、総務省としての移動体通信に関する取組みについてご講演いただきました。

① デジタル田園都市国家インフラ整備計画における継続取組み
・ 5G中継基地局による不感地への5Gエリア拡大、フェムトセル基地局や宅内リピーター設置に向けた法整備等、国内の5Gビジネスへの制度化を進めていく。
・ ローカル5Gの更なる普及に向けて、(1)広域的な利用等、(2)免許手続・検査の簡素化、(3)海上への利用拡大等の課題に対し柔軟な運用に向けた検討を進めていく。
 
② 920MHz帯小電力無線システムの広帯域化(802.11ah)
・ 自営系無線システムの仕組みとして、920MHzの広帯域化を進め11ahの仕組みができたことにより、従来の920MHzの最大5チャネルボンディング(1MHz)から20チャネルボンディング(4MHz)の利用が可能になった。
・ 会場で実機による動作確認をし、十分にクリアな画像や映像データを送信できるシステムであることや、その通信性能を踏まえ、今後活用が期待される分野のユースケースについて説明がありました。
- 社会インフラの監視(災害対応、河川監視等)
- 農業水産分野等のスマート化によるICTとIoT実装
- 工場の現場端末や産業用ロボット機器、それら機器のファームウェア等の更新処理利用
 これらを踏まえ自治体やサービスプロバイダーと連携して、11ahが様々な場所で利用できるインフラとなるよう成長させて欲しいとのことでした。

 

■総会議事:技術TGの活動報告

 技術TGの活動報告については、当団体鷹取副会長より報告がありました。

① 電波法令改正と制度化
 11ahの国内利用は、これまでのWi-Fiと同様に技適(工事設計認証)取得済み製品の利用が電波法令で義務化されているので、技適マークが付いている製品を用いなければならない、とのことです。
 
② 920MHz帯の802.11ahの活用
 11ahは920MHz帯で免許不要かつ共用可能な20mW出力が実現できたこと、11ahとして利用可能な周波数チャネル幅は1/2/4MHzモードの設定が可能になる説明がありました。
 また、新たに可能となった4MHz帯域活用によって、1MHzモードと比較してスループットを4倍ではなく4.5倍に向上可能となり、動画伝送等への対応だけではなく周波数利用の効率化と有効活用にも繋がるとのことです。
 
③ 11ah商用機の伝送評価
 11ahは送信時間の10%Duty制限(1時間あたりの合計送信時間を360秒以下に制限)が課されますが、実際の商用機を利用した検証により11ahの多端末接続時通信性能について説明がありました。
・ 11ahはこれまでのWi-Fiと同様にデータを短い送信時間のパケットとして細切れに送信するため、Duty制限がある場合でもパケット送達が途切れない伝送が可能になる。
・ 多端末を接続させた場合でもDuty制限があるため、多端末接続時のスループット低下を抑制することができる。
 あわせて商用機ベースを活用した実フィールドによる通信性能評価や、4台のカメラ映像の同時伝送評価による伝送能力等について検証結果の報告がありました。
 また850MHz帯MCA跡地の利用に向けた、千葉県鴨川市において実験試験局を利用した実証実験の取組みについて報告があり、2023年は11ahの国内利用を促進すると共に11ahの850MHz帯利用に向けた新たな展開への取組みも開始するとのことです。

 

■総会議事:マーケティングTGの活動報告

 マーケティングTGの活動報告については、当団体の藤井運営委員より報告がありました。

① マーケティングTGの活動
 2022年の大きな活動について、ワイヤレスジャパン2022への出展と来場者フォロー活動、実証実験の継続活動とビジネス化、自治体からのニーズヒアリング結果について報告がありました。
ワイヤレスジャパン出展とフォロー活動
 ワイヤレスジャパンでは、無線LANビジネス推進連絡会と共同出展をして、国内外の11ah対応のアクセスポイントや各種デバイス、USBドングルやモジュール等を出展しました。電波法令改正直前の展示会という事もあり、数多くのお客様に来場いただき、より具体的なビジネスに向けた話をいただきました。
実証実験の継続活動とビジネス化
 実証実験を実施した、木更津、岩見沢、小田原、高知等の活動状況について、利用ニーズが高いことから継続的な活動を進めると共に、実ビジネスに向けた取組み等も進めています。
自治体へのアプローチ
 新たな試みとして、マーケティングTGメンバーが直接自治体に訪問する取組みを開始し、11ahの訴求活動を進めると共に、自治体が抱えている課題への11ahの利活用について意見交換を実施しました。従来のWi-Fより格段にエリアが広がり、LPWAでは困難だった映像が使えることにより、遠隔からの現場の詳しい状況把握が可能になる利点は大きいとの話を多く受けました。
 
② 商用化の展開
 商用化に向けては、施設園芸におけるLTEやLPWAの置き換え事例の紹介がありました。あわせて自治体IoT実装に向け、政府の交付金事業や補助金事業を活用した導入も今後増えてくるとのことです。
 
③ 製品化の状況
 商用化スタート時点における国内外の製品化状況を図式で示し、各種インターフェース変換機能を装備したゲートウェイ製品、有線LANの機器を11ahに変換するブリッジ製品、それらを束ねるアクセスポイント製品について説明がありました。
 また、11ahを搭載したカメラデバイス製品もリリースされるとのことです。国内メーカーより11ahモジュールや開発キットの提供がスタートして、11ahを搭載し直接通信できるデバイス製品が今後は充実されていくとのことです。

■総会議事:会計報告、他

 11ah推進協議会の会計報告等について、北條運営委員より会員数の最新状況や2022年の活動、運営会体制の変更と役員再任等について報告がありました。
 

■特別講演1:LPWA市場における11ahへの期待

 NTT東日本ビジネス開発本部 増山様より「LPWA市場における11ahへの期待」についてご講演いただきました。

① 地域の産業を取り巻く現状
 労働人口減少による全国的な労働力不足、農業を取り巻く環境情勢や中小企業を取り巻く慢性的な人手不足についてお話があり、ネットワークやITを活用し不足部分を補っていくのが課題となっています。
 NTT東日本ではこれらの地域社会が抱える課題に対して、デジタルとオンラインによる解決に向けた取組みを進めると共に、光ファイバー網の先を無線化することで、地域の「食と農業のICTによる生産性向上」、「中小企業のDX化支援」、「ICTを活用した安心・快適・便利な街づくり」を支えるとお話いただきました。
 
② 自営無線を活用した地域活性化の取組み
 NTT東日本として自営無線を活用した自治体との取組みについて紹介がありました。
・ 山梨県山梨市の取組み
 JAや自治体と一体となり農家の営農や省力化を支援し、見回り稼働2割削減、経済損失抑止を実現した取組みを進め、データに基づく失敗のない栽培や作業効率化、盗難・鳥獣害対策等を実現しています。
・ 千葉県木更津市の取組み
 鳥獣害対策の取組みで高齢化や人手不足をICTやIoTで改善を図り、カメラによる監視、罠による鳥獣害対策だけではなく、捕獲された鳥獣をジビエとして地元企業が加工し地域産業の活性化にもつなげています。
・ 山形県長井市の取組み
 内閣府のデジタル人材を派遣する取組みとして自治体の中にNTT東日本の社員を派遣し、自治体側の立場で「スマートシティ長井」の様々な取組みを進めています。具体的な取組みとしてLPWAを活用した河川監視と、GPSセンサとスマホアプリを活用した遠隔による子どもの見守りを行っています。
 
③ 11ahに対しての期待
 11ahを利用することで、LPWAソリューションの高度化やマルチユース化の発展に期待がもてるとの話がありました。
・ 映像や画像の取扱により、河川監視や鳥獣害対策の高度化が実現できる。
・ 広帯域で長距離通信が可能なため、地域共用のプライベートワイヤレスを設置することで、自治体のみならず地域産業含めた課題解決への展開ができる。
・ LPWAの真打として、11ahで様々なLPWAの規格を吸収し、ONEネットワーク+ONEクラウド環境を実現できる。

 NTT東日本は今後11ahだけではなく、従来のWi-Fiやローカル5G等を組合せて、その通信が持つ特性を活かし利用することで、地域のスマート化を支えるプライベートネットワークを構築し、地域・産業界の課題解決を図る取組みを進め、それに対してAHPCの団体活動を進めると共に11ahの市場創出に向けた取組みをしていくとのことです。
 

■特別講演2:国内向け11ah製品の最新情報

 各社より11ah対応製品の紹介がありました。
・ フルノシステムズ社
 エンタープライズ向けマルチモードに対応した「IoTゲートウェイ対応11ahアクセスポイント」、古野電気が開発を進めている「11ah対応高感度定点監視カメラ」、各製品に対応したクラウド管理システムや可視化サービスを提供します。
・ Askey社
 現在開発を進めている製品と今後のマイルストーンについて説明がありました。11ah対応のアウトドア設置が可能な「IoTゲートウェイ製品」、「11ah対応高感度カメラ」、「11ah対応宅内用ゲートウェイ製品」、「11ah対応USBドングル製品」、あわせてクラウド管理システムや可視化サービスの提供も順次進めていきます。
・ サイレックス・テクノロジー社
 既に発売をスタートした「11ah対応無線アクセスポイント製品」、「11ah対応有線LANブリッジ製品」、11ah対応組込み用モジュールと評価用キット」、統合管理システムを提供します。
 
 フルノシステムズ社が提供するカテゴリ別の製品

 Askey Computer社が提供するカテゴリ別の製品

 サイレックス・テクノロジー社が提供するカテゴリ別製品

 

■特別講演3:802.11ah HaLowについて

 11ah対応製品装置の心臓部にあたる11ahチップをいち早く開発しAHPCにご提供いただき、11ahの基盤を築いたNewracom社副社長のFrank Lin様より「802.11ah HaLow」についてご講演いただきました。

① Newracom 社のビジョンと沿革
 2014年に会社をスタート、2年後に世界初11ahのフィールドテストに成功、2019年には11ah SoCを発表しました。2021年には11ah商用製品の販売を開始し、あわせてWi-Fi HaLow認証とプロモーション展開、主力製品となるNRC7292について説明がありました。
 
② 商品化 と Market Ready Solutions
 システムモジュールや周辺デバイス機器、端末ソリューション展開の説明があり、その各々の詳細として11ahモジュール製品へのNRC7292の提供、それらを利用した新たなアプリケーションに対応するアクセスポイントソリューションを進めていくとの話がありました。あわせて11ah市場には欠かせないキーデバイスの端末機器やデバイス機器も今後展開していく予定です。
 
③ 今後の市場適応と拡大
 海外における11ahの今後の適用分野について、具体的なアプリケーションやサービス展開計画の説明がありました。
企業系システムと自動化
 物流や流通店舗における自動化のインフラに11ahが活用されるようになり、防犯や防災用途での保全・保安監視用途での利用が進みます。
マスマーケットの用途
 キャンプ場のレクレーションビークルやキャンピングカーへの活用、ホームインターフォン含めたホームオートメーション等への利用が進みます。
スマート運輸とテレマティクス
 都市計画の一環として、バス停等のバスロケーションや電気自動車のチャージステーション、車両間通信への応用や利活用も今後進んでいきます。
 また各々の市場に対して、既に実証を進めているユースケースについても説明があり、海外における11ahの市場はエンタープライズ向けだけではなく、コンシューマー用途のマスマーケットにも着実に進んでいるとの話がありました。

  講演の最後に日本を含めたアジアパシフィックエリアのエコシステムと市場創出や拡大に向けた取組み、11ahの将来に向けた実装環境や利活用等についても説明がありました。
 

■製品デモ

 過去の総会では実証実験の内容を動画で紹介していましたが、今回は既にリリースされている製品や技適取得をした製品を用いて、サイレックス・テクノロジー社山田様より動態デモの実演を行いました。

 
 内容は11ahの各種機器を利用して、IPカメラの映像を会場内と外で伝送するシンプルなデモとなりましたが、最大のポイントとしては以下になります。
・ 11ahの10%Duty制限でも十分に動画が送れること。
・ Wi-Fi規格となることから、異なるメーカーの製品であっても相互接続性が担保されること。
 (今回はサイレックス製ブリッジとフルノシステムズ製アクセスポイントを利用)
・ 920MHz帯の特性となる電波環境が悪い場合でも、電波の回り込み特性でデータ転送ができること。
 デモ構成図

 

■閉会の挨拶

 総会・特別講演の閉会では当団体鷹取副会長より挨拶がありました。
 11ahが使えるようになったことで今後更にDX化が着実に進んでいくものと思います。例えばLPWAでは通信容量が足りない、無線LANだと通達距離が短い等といった、従来の環境では叶わなかった部分について補うものが11ahの最大のポイントとなり、是非これから皆様と考えて11ahの本格的な展開を進めていきたいとの話があり、第5回の総会と特別講演を終了しました。