ワイヤレスジャパン2022講演模様

国内利用開始が間近に迫った
IoT向けWi-Fi規格IEEE802.11ah(Wi-Fi HaLow) の実力と展開

(802.11ah推進協議会 副会長 鷹取泰司)



  今日のセミナーはタイトルの「国内利用開始が間近に迫った」というところが重要です。半年とか1年という話ではなくて「もうすぐだ」ということをご理解いただいて、聞いていただければと思っています。
  11ah推進協議会で副会長をしています鷹取と申します。今回は、展示会場にブースも出しています。11ahの製品にどういうものがあるのかというところを、ブース等にお立ち寄りいただいて、見ていただければと思っています。


802.11ah規格について



  まず11ahはどういうものなのかということです。横軸にエリア、縦軸にスループットを取っています。無線アクセスを展開していくときに、IoT向けですと、Wi-Fiを活用してという話と、もう1つLPWAを活用してという大きく2つがございます。
  これに対して11ahはどういう位置付けにあるかということですが、これまでのWi-Fiより遠くまで飛びます。それから、今のLPWAより高速な伝送ができるようになります。「高速」とはどのぐらいかということですが、動画なども通せるようなものです。今までのLPWAとは違う価値を提供できるのではないかと思っています。
  私どもは、「DXにはIoTが必要だ」という話がよく出てきますが、低コストで誰もが簡単に展開できて、しかも価値のある映像等の情報を運べる、そのような特徴が重要で、11ahが登場することによって、IoTの展開も本格的に始まっていくのではないかと考えています。



  このスライドでは「無線LANはいろいろな規格があります」というところを書いていますが、11ahという規格は無線LANの仲間ではありますが、通常の無線LANとは違っています。縦軸のスループットだけを見ると、最新の無線LANのスピードに比べて低速ですが、一番のポイントはプラチナバンドでのIoT向けWi-Fiということで、1GHz以下の周波数、すなわち920MHz帯等を使って無線LANを展開する規格になっています。



  スピードは通常のWi-Fiほどは出ませんが、本スライドの通り非常に大きな特徴があります。1点目は伝送距離です。こちらが非常に大きく拡大できています。2点目は、端末からアクセスポイント・クラウドまでエンドエンドで利用者が自由にネットワークを構築できるところです。これはWi-Fiですので、皆さん、Wi-Fiを自由にいろいろと展開してきていると思います。そのような使い勝手で展開できるところは、今までのLPWA等とは違ってくるところかと思います。
  同じような意味合いですが、フルオープンでIPベースのWi-Fiファミリーであるということで、今までWi-Fi向けにいろいろと開発されてきた資産をそのまま引き継げるところも大きな特徴かと思っています。それから、何といいましても数Mbps程度のスループットが出せるという特徴があります。多様なユースケースへの適用を実現して、IoTの活用に貢献できるのではないかと思っています。



  その他にもいろいろと特徴があります。通常の無線LANよりも低速なところを低機能と思われがちですが、そうではなくてIoT向けということで世界最先端の無線LANの技術者たちが、いろいろな機能を11ahという規格の中で実現させています。ここに書いてあるような長い遅延波・反射波にも対応する、あるいは低消費電力や長距離伝送も特徴です。 



  他のLPWA等に対してどういう位置付けにあるのかというのが、こちらの絵です。何といっても遮蔽物がなければ1キロぐらいのエリアをつくれます。通信速度も1Mbps程度のところをカバーします。こういうところが大きな威力になってくるのではないかと考えています。電池駆動とか電源リソースが制約された製品の利用も想定されていますので、バッテリーという観点でもより自由度の大きい展開が期待できるのではないかと思います。



  そのようなところを全体的に書くとこんな形になります。柔軟な帯域、設計が容易、Sub-1GHz、1GHz以下の周波数を使っている、低消費電力である、Wi-FiブランドのIoTである、このようなところが11ahの魅力と私どもは考えています。
  実際に11ahはどんな実力を持っているのかということで、私ども推進協議会ではさまざまなユースケース・場所で実験を重ねてきています。全部、良好な特性を確認と書いていますが、この中で今日は4つほど簡単にどんな結果だったかをご紹介させていただきたいと思います。



  まず1つ目、集合住宅に置いた場合にどのぐらいエリアをカバーできるのかを評価しています。分かりにくいですが、真ん中の絵の左の7階の赤い星が付いているところにアクセスポイントを置いたときに、これは全部で58m幅の住宅ですが、端のところまでエリアが確保できます。なおかつ別の階、1フロア下がったところでも端まで届いています。片側が58mなので、両側でいうと100mぐらいのところの3フロアが、1台のアクセスポイントでカバーできることも確認しています。



  集合住宅だけではなくてオフィスみたいな場所に置いた場合はどうなのかということで、右に映っている写真のような一般的なオフィスのビルですが、ここもフロアまたぎで4階の窓際にアクセスポイントを置いていますが、3階のあたりでも500Kbps以上のスピードが出ているということで、比較的広いエリアをカバーできることがオフィス環境においても実証できています。



  こちらのブースでは動画も流していますし、下にあるYouTubeのリンクのところでは動画も見られる状況になっています。これは屋外の環境で動画伝送を実験した結果です。1.1km・1.24kmというところで、1kmを超えるところでも、こちらの動画の伝送が実現できていることを確認しています。こちらの動画はブースでもご紹介しています。



  それから、海の上もエリア化していくようなニーズがありますので、海上でも測っています。これは2.5km先のところで約2Mbpsのスループットを確認しています。もちろん見通しが取れている綺麗な環境でアンテナも指向性を持ったものを使用していますが、2.5km離れたところでも、こういったスピードが出せています。



これから始まる11ahの展開



  そういった11ahですが、どういうマーケットに、どんな形で展開していけるかが大事なポイントだと思っています。右側に3点書かせていただいています。既存のIT資産を有効活用、画像・映像を活用したい、広範囲で利用していきたいというようなところが、さまざまなところから要望として出ています。



  実は去年のワイヤレスジャパンも展示していますが、去年の環境でもほぼ全エリアを1つのアクセスポイントでカバーできています。こういったイベントスペース、いわゆるモールみたいな状況だと思いますが、そういうところでの展開も考えられます。「遠くまで飛びます」という言い方をしてしまいましたが、実サービスでは別の観点もありまして、電波がよく回り込むところがこの周波数の特徴です。エリアをつくったときに一部の場所で通信できないことをカバレッジホールという言い方をしますが、そういうものを極力つくらないで済むところも大きな特徴になっています。そういう形で隅々まで電波を届かせることができます。



  ここで書いてあるような、広範囲をカバーして監視カメラなどのインフラに使う、IPベースのネットワークでIP対応機器との通信を行う、マーケティングにつながるようなデータを収集していく、このようなユースケースで利用していくことが考えられます。



  それから、ルーラルエリアでのDXの話もいろいろとありますが、広範囲をカバーできるとか各種センサー機器と通信できるということで、地方でスマートシティ化を加速していくところでも11ahの特徴が生かしていけるのではないかと考えています。



  それから、先ほど「海上で」という話もありましたが、水産業のような環境でも11ahを活用していくことが期待されています。広範囲をカバーできますし、設置した網にどういったものが掛かっているかという情報を、海中ドローンからの画像を遠隔で見るとか、そのようなとこもできます。水産業などでも活用が期待されている状況です。



  今、真ん中のところに「当初想定していた11ahの利活用が期待できる分野」ということで、農業、インダストリー、オフィス、ホームと書いています。我々は実証実験をやったり、こういうイベントで紹介したり、いろいろな形で11ahの話をさせていただくと、より大きなマーケットがまだまだありそうだというところも見え始めています。新たなユースケースの創出、市場の利活用の浸透ということで、より多くの市場で11ahが今、期待を集めている状況かと思っています。



  実際にどういう端末・デバイスが、どんなタイミングで、どう出てくるのかというところで、まず11ahのアクセスポイント、端末・デバイス、カメラにWi-Fi HaLow(11ah)を搭載しているもの、有線LANのブリッジ、各種組み込み用のモジュール、このようなものがまずは出てきて、その後、他の無線LANと一緒に使っていくような機器にも広がっていくだろうというところで、無線アクセスポイント製品、既存デバイスを11ahに対応させていくような製品、既存端末とデバイスの11ah化、11ah対応端末とデバイスということで、広範囲な11ahの展開が期待できると思っています。IoT系の新たなものが登場して、新たなニーズに対応していくということで、11ahがいろいろなIoTソリューションあるいはデジタルトランスフォーメーションに貢献していけるのではないかと考えています。



  そういう意味で、ここで4つほど挙げさせていただきましたが、かなり規模感がありそうな大きいマーケットも11ahが貢献できる領域だと考えています。このようなところも皆さんと一緒に市場をつくっていけば良いと考えています。



国内外の動向・端末の動向



  Wi-Fi Allianceの動きとしては、去年の11月にWi-Fi HaLowが相互接続認証プログラムというものを開始しています。これは皆さんがお使いのWi-Fiと同じ仕組みで、あるベンダーの製品は、そのベンダーの製品としかつながらないとなると、なかなか広がっていかないということで、異なるベンダー間でもちゃんと接続できるようにということで、Wi-Fi AllianceもWi-Fi HaLowというプログラムを開始している状況です。そういった形で、今は北米中心ですが、11ahの展開が始まりつつあります。



  こちらはチップベンダーです。この辺も一例ですが、国内外で広がる端末の多様化ということで、いろいろな端末が準備されている状況です。実際にブースでも並べていますので、手に取って見ていただければと思っています。





  「11ahは非常にいいですよ」という話をしていますが、最大の課題は何かというと、今のこの瞬間に使えるかと言われると、今はまだ国内制度が準備できていなくて、今すぐ使えるという状態になっていない、というところです。



国内制度化について



  タイトルのところでも「間近」ということを申し上げました。920MHz帯はすでにLPWAでいろいろな形で活用されている周波数帯です。こちらで11ahが使えるようになるということで今、準備を進めています。



  少し細かいですが、この周波数帯はIoT向けということで、電波法令で「1時間のうち最大で360秒まで、電波を送信していいですよ」という制限されています。そうすると途切れてしまうのではないかということを心配される方もいますが、そうではなくて連続的なデータ通信が可能です。非常に細かい単位で送信時間を制御することで途切れずに動画の伝送ができます。こちらのDuty比(送信時間制限)を守った状態での動画伝送のデモをブースで行っていますので、見ていただければと思っています。



  こういうところの制度は最後の最終段階に来ていまして、間もなく国内で利用可能になります。最初に申し上げた通り半年とか1年先という話ではありません。もうすぐ利用可能になるという状況です。



  実は920MHzだけではなくて、さらなる展開ということで新しい周波数帯の話も始まっています。



  こちらはもう少し時間がかかりますが、新しい周波数を使ってさらなる展開も期待できている状況です。さらにこの先の展開も11ah推進協議会では推進している状況です。



  我々としては本格的なIoTに向けた11ahの展開を推し進めていきたいと思っていますし、皆様と一緒にこういう世界をつくっていきたいと考えています。



  最後です。こちらはブースのご案内になります。11ah関係の展示、今回のワイヤレスジャパンでは2つございます。1つは、すぐそばのところにエイチ・シー・ネットワークス社様のブースに11ah関連の展示がございます。



  それから、出入口付近のところ、番号B13のAHPC、11ah推進協議会のブースで展示も行っていますので、ぜひご覧いただければと思います。
  以上で説明を終わらせていただきたいと思います。ブースでも意見交換させていただけると思いますので、ぜひお越しいただければ幸いです。本日はありがとうございました。