IoTにおけるWi-Fiの役割と802.11ah
第4回 802.11ah実現のための課題

802.11ah推進協議会
会長 小林 忠男


 今回は、802.11ahを日本で実用化するための課題について、見ていきたいと思います。


  • 11ah実用化への2つの課題

802.11ah推進協議会(以下、AHPC)では、802.11ah装置の実験試験局免許を総務省から5月20日に取得しました。

実験局免許取得後、802.11ah装置を用いて、「ワイヤレスジャパン」の公開実証実験
(https://www.11ahpc.org/news/20190606/index.html参照) を行い、 現在は複数個所での特性評価実験、ユースケース実験を実施しています。

802.11ahが予定している920MHz帯を日本で使えるようにするには、

①802.11ahシステムがどれだけの実力を有しているか、その特性と可能性を明確にした上で、

②既に920MHz帯を使用してサービスを提供しているLoRa、SIGFOX、Wi-SUNとの共存条件を具体的にすることが必要となります。

現在、802.11ahの実力を見極めるうえで最も重要な「距離対速度」特性を取得する調査を行っている最中で、今はその具体的なデータを示すことは出来ませんが、Newracom社提供の図表-1に示すような特性が得られると考えています。

1MHz幅の帯域で1Mbpsのスループットを実現し、伝搬距離が1kmを超えても他のLPWAシステムを上回るスループットが実現することが期待できるでしょう。
また、4MHz幅の帯域になれば伝搬距離は短くなりますが、通信可能エリアでのスループットは映像伝送に十分なスループットになると考えられます。


920MHz帯を共用する他システムとの共存条件を明確にするために、現在の920MHz帯の電波の使用状況を調査することは重要なことです。
802.11ahが、920MHz帯を既に使用している他システムとどれほどの時間、空間でその周波数を共用しているかです。
図表-2は先のワイヤレスジャパンの会場内での他システムとの電波状況です。

また、図表-3に示すように、802.11ahの信号帯域に他システム(LoRa、SIGFOXまたはWi-SUN)の信号波形を検波することによりキャリアセンス機能が働き、802.11ahの送信を停止していることを確認しました。

3日間の「ワイヤレスジャパン」開催中に限れば、会場内の他の出展者による明らかな不法電波による中断以外には、802.11ahのキャリアセンスが働いてデモ用の映像伝送が停止することはありませんでした。 図表-4は、ある日の横須賀駅前での920MHz帯通信状況のイメージです。
各chで200kHz帯域の通信が確認されましたが、それぞれのchでの通信密度は非常に小さく、送信の間隔は秒のオーダーで行われていました。
時間率的にみると、常時出ているわけではなく間欠的に電波が発射されていることが分かります。

これからは、後発となる802.11ahが他システムと共存するためのキャリアセンスレベル、帯域幅、フィルタ特性等を具体的にしていく必要があります。
その時に、802.11ahが使用可能な時は、時間率的に空間率的にどうなるかが重要な判断ポイントになると思います。
現在のWi-Fiも2.4GHz帯は大変混雑していて繁華街等では最悪使えない場合やスループットが極端に悪くなる場合もあります。
802.11ahも他システムと同じ周波数を共用する場合に、「ルール化のために規定する条件によって802.11ahが時間的に空間的に、802.11ahが目指す仕様でどれだけ使えるか」を明確に知らなければなりません。
現状の920MHz帯を複数のシステムで共用する場合に、802.11ahの可能性を十分に発揮することが出来ない場合には、前回述べたように新しい周波数帯を使用できるように、 併せて取り組んでいきたいと考えています (Wi-Biz通信Vol45 2019/07/16参照)

  • 11ahが活躍する今後の市場の可能性

 IoTだけでなく、つながるクルマ「CASE」、ドローン、ロボット、ウーバー、テレワーク、AR・VR等々の実現には私たちが携わっているWi-Fiや5GやLPWA等、様々なワイヤレスのテクノロジーが不可欠です。
また、ワイヤレス技術だけではこれらの実現は不可能で、今更説明するまでもありませんが、インターネットやスマートフォン等の既にあるプラットフォームに加えて AI、エッジコンピューティングや半導体・部品等の革新的テクノロジーが必要です。
図表-5に示すように、これらのテクノロジーが有機的に融合してこれからの新しいシステムサービスが実現するのだと思います。

 Wi-Fiは毎日の生活に浸透しなくてはならない通信手段になりましたが、図表-5に示す、これからの新しく実現する世界でWi-Fiが活躍する場面はまだまだたくさんあると思います。
日本でもテレワークがどんどん拡大していますが、この実現のためにはWi-Fiは不可欠なものだと考えるのですが 、テレワークとWi-Fiが、そのコストと効率性、安全性を含めた議論が十分、進んでいるとは思えません。テレワークはテレワーク、Wi-FiはWi-Fiだけで話が進んでいるように思えます。 両方の関係者が連携して普及拡大を進めれば両方の市場はもっと拡大するのではないでしょうか。
ARやVRの実現のためにはワイヤレスが必ず必要になります。最新の802.11axはARとVRの実現のために有効な通信手段になると思うのですが、それに関連する話はまだ殆どないのが現状です。 今回の802.11ahもIoTの普及拡大のために大きく貢献すると考えます。IoTのトライアルが各方面で実施されていますが、その費用対効果が検証され、 実用レベルで導入されたという事例はまだまだ少ないように感じられます。システム構築の自由度、簡便性の問題、そして実施したがその費用対効果が検証できない等の問題があるのかもしれません。 802.11ahは、4回にわたり説明しましたように、それらの課題をクリアできる可能性があると思います。

Wi-Fiや5Gとともに新たなテクノロジーがどんどん実現してきました。AIやエッジコンピューティング等の新たなテクノロジーをWi-Fiに採用、活用することでWi-Fiの大きな進化が期待できるのではないでしょうか。 つながるクルマのための制御は、技術の高さ、情報量の多さともこれまでにない難しさだと私のような素人でも感じることが出来ます。
細かいことは分かりませんが、AIやCASEに使われている最新テクノロジーをWi-Fiにも取り入れたらどうなるでしょうか。
802.11ahではキャリアセンスをして他システムとの共存を実現するのですが、AIと最新半導体技術を使えば場所毎、時間毎の電波環境を瞬間的に把握して適切な動作を実現することが出来るかも知れません。
各地点での電波環境をクラウドが管理し、Wi-Fiを選ぶかモバイルを選んでつなぐか自動的に行い、お客様のストレスを減らしより良い通信環境を実現できるかもしれません。
良く言われるホワイトスペースももっと実用的に実現可能になるでしょう。
どうしてもWi-Fiだけで、「速さ」「多様性」等を追及してしまいますが他の最新のテクノロジーを自分の中に取り入れるチャレンジがワイヤレス業界の中では必要なのではないでしょうか。

これで4回にわたる「IoT時代の802.11ah」のまとめとします。


第1回 IoT時代の到来と802.11ah

第2回 802.11ahの特徴と技術

第3回 802.11ahのビジネスモデルと具体的なユースケース