<講演題目>
IoTに最適なWi-Fi規格「IEEE802.11ah(Wi-Fi HaLow)」で広がる社会や地域の課題解決につながるユースケース

【ワイヤレスジャパン2019 セミナー講演抄録】


 本日はお忙しいところセミナーに参加いただきありがとうございます。本講演は802.11ah推進協議会運営委員の酒井が講演する予定でしたが、急用ができたため、同じく運営委員の北條からご説明させていただきます。

  • 802.11ah推進協議会について

 802.11ahはLoRa、SIGFOX、Wi-SUNと同じ920MHz帯を活用した新しいLPWAの規格で、802.11acや11axなどの無線LANと同じWi-Fiファミリーの一員です。この技術方式は、今後、インダストリーやホーム、オフィス等の様々な領域で、社会的課題解決に向けた新たな手段を提供することが期待されています。
 この802.11ahは無線のレギュレーション上、日本ではまだ利用することはできませんので、11ahの日本国内での利用実現に向け、関係する企業・団体が自主的に取り組む組織として「802.11ah推進協議会」が昨年の11月に発足しました。

 当初50社程度であった会員は3月末で82団体になり今も増加しています。この表の通り、キャリアに加えて、メーカやSIerからチップベンダに至るまで多様なメンバで構成されています。また、協議会の役員、運営委員は表のとおりです。

   


  • 802.11ahへの期待

 既存のWi-Fiは速度がGbpsクラスまで出ますが、距離は屋内で数10m、屋外でも100m程度しか通信できません。一方で、既存のLPWAでは通信距離は数km程度になりますが、通信速度は数100kbps以下で、上り回線では画像などは送ることができません。

 802.11ahは、一つは、より遠くまで飛ばすことができる無線LANと考えられ、家の中に設置したAPから例えば外の駐車場にある自動車まで接続することが可能なので、ITを装備した車の走行情報を家の中から取得することが可能になります。また、もう一つは、数Mbps程度の速度が出るので、IoTの端末から画像や動画を送ることができるようになります。
 また、802.11ahは既存の無線LANと同様に街の電気屋さんで購入して設置すればそのまま使うことができ、登録や申請の必要は全くありません。さらに、IPベースで動作するWi-Fiのファミリーであるため、既存のLANなどのネットワークにそのまま接続するだけで通信が可能であり、DHCPサーバやDNSサーバは新たに構築する必要がなく、そのまま利用できることになります。つまり、この802.11ahは今後のIoTのビジネス市場を大きく変えるポテンシャルを持った方式だといえます。


  • 802.11ahの動向

 802.11ahの規格自体は少し前に制定されましたが、これまで利用可能なチップがなかったのですが、最近、複数のチップベンダが実際に動作するチップの提供を開始したため、今後の商用化の動きが加速しています。それらのチップを利用した製品を用いた様々なプロジェクトが世界各国で進行中です。


  • 802.11ahのビジネスマーケットの広がり

 802.11ahが自営で自由に使えることやIPネットワークとの親和性があるということから、AHPCでは、今後の802.11ahデバイスの出荷台数は、これまでのWi-Fiと同じように爆発的に増加する可能性があることを試算しました。この大胆な推計によれば、約8000万台のAPと35億台のデバイスが出荷されることが期待されます。


  • 802.11ahのユースケース

 まず、農業のユースケースでは、これまでのLPWAで送っていた遠隔の農地の温度や湿度を送るという応用例に加えて、802.11ahの画像が送れるというメリットから、高度な営農指導、高度な分析、さらには鳥獣害対策の効率化が図れます。特に、鳥獣害対策では、これまでのLPWAでは送れなかった画像や動画が送れるため、檻(オリ)にかかった動物の種類が現地に行かずにわかるため、その動物に対する必要な準備をして現地に行くことが可能になります。
 また工場のユースケースでは、例えば広大なプラントの監視カメラの映像を、これまではWi-Fiを使って遠隔に送信していましたが、802.11ahを用いれば、より遠くまで動画を転送することが可能になるため、中継地点の数を減らすことができるなど、コストの削減が期待できます。

 

 学校のユースケースでは、最近学校にもWi-Fiが普及し始めましたが、現在は校舎内の教室などが無線のエリアとなっています。802.11ahは、例えば校舎に一つ設置すれば、校舎内だけでなく、体育館や運動場など敷地全体がエリアとなるため、防犯センサや監視カメラの映像などを取集することが可能になります。学校は、災害時の避難場所として使われることもありますので、その際には運動場が臨時駐車場になることもあり、その際に車で寝泊まりする人の通信手段として活用することも可能です。
 1km程度の距離まで到達するという利点は、災害時の通信にメリットが大きく、またWi-Fiと同様にRelay機能を持つためさらに遠くまで容易に通信エリアを広げることが可能です。

 


  • 802.11ahを用いた公開実証実験

 これまで802.11ahについては、日本ではレギュレーションの関係で一般には利用することができませんでした。そこでAHPCでは、5月20日に802.11ahの装置の実験試験局免許を取得することにより、日本で初めて、802.11ahの装置を用いた公開実証実験を行いました。
 公開実証実験のシステム構成は鳥獣害などのユースケースを想定したものでご覧の通りです。

 

 AHPCブースにある802.11ahのアクセスポイントにさまざまな端末が接続して通信します。見ていただくポイントは、LPWAでは送ることができない檻の中の画像を送ることができることと、これまでのWi-Fiでは実現できないほどの遠くまで伝送できることにより、自宅から離れた山間部に設置した檻で捕獲された動物の種類や状況を把握し、効率的な対応をすることが可能になります(図9)。実験では、NTT東日本様にご協力いただき、遠隔からAHPCブースにある檻の映像を見ることができます。
 今後の実証実験は、今回のビッグサイトを皮切りに、都心、郊外など各エリアでの特性評価を行うとともに、「ホーム」「オフィス」、さらには各種ユースケースで、価値創出に向けて実証実験を積み重ねていく予定です。

 

 公開実証実験の結果については、ワイヤレスジャパンの会場で802.11g(2.4GHz帯無線LAN)と802.11ahの比較実験を行いましたので、その結果のビデオでご覧いただきます。
 また、今回802.11ahのチップを提供してくれたチップベンダのNewracom社が自社ビル周辺で実験した比較結果も合わせてご覧いただきます。

 


  • まとめ

 最後にWi-Fiがここまで普及した理由が、世界共通のデファクト規格、利用者が自由にNWを構築、デバイスの多様化・普及が理由として考えられますが、その長所を持つ802.11ahが今後IoTの領域により多様なサービスが提供されることを期待します。

 なお、展示会終了まであとわずかですが、お帰りにAHPCブースにお立ち寄りください。静態展示ですが商品レベルのAPが展示されていますので合わせて見ていって下さい。

 

 最後に、実際に802.11ahの通信によるリアルアイムのカメラ映像を見ていただきます。サーバ型の映像なので10~20秒程度の遅延があります。カメラの映像をそのままディスプレイに表示しています。
 皆様ご覧ください(本稿では省略します)。